更新日:2024年9月7日
不動産売買の際に行われる物件調査は、物件の適正な価格と情報を提示するためには欠かせない作業です。売買トラブルに発展させないためにも、物件調査は正しいプロセスで行うことが大切です。今回は、物件調査の流れや注意点について解説していきます。
不動産の売買をするとき、物件の詳細や価値などについて調査するのが、物件調査という作業です。不動産調査は正しい価格で物件の売買をするためには欠かせないプロセスで、不動産業者が仲介役として調査を代行します。
物件調査は、現地での調査や役所での調査など、いくつかの方法を組み合わせて行われます。不動産の公正な取引を行うには、物件調査の流れや目的を理解したうえで正しく情報を収集することが大切です。とはいえ、実際に調査業務にあたったことがない方にとって、物件調査の流れや方法はわかりにくいものかもしれません。
そこで今回は、物件調査の流れについて解説していきます。物件調査を行うときの注意点やよくある質問も紹介しているので、不動産業界への転職をお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
不動産購入で行われる物件調査とは物件の概要を調べる作業のこと
そもそも、不動産の売買するときに行われる物件調査とは何なのでしょうか。物件調査とは、不動産業者が物件の概要について調べる作業のことを指します。
通常、不動産の売買は不動産について知識が深くない方同士で行われます。しかし、知識のない方だけで取引を行ってしまうと正しい価格設定ができず、スムーズな取引ができません。そこで物件のプロである不動産業者が仲介役に入り、物件概要を加味したうえで公正な価格で取引する手助けをすることが、物件調査の目的です。
物件調査で行われる調査は、売主への聞き込みや周辺状況の調査にとどまりません。法務局や役場で行われる役所調査や、市場の動向についての調査も行われます。調査を依頼された不動産業者は、複数の調査によって得られる情報を複合的に活用し、物件の正しい価値を導き出していきます。
物件調査の流れ
実際に物件調査をするときは、6つのステップを踏んで調査を進めていくことになります。ここからは、物件調査の流れを具体的にみていきましょう。
1. 物件概要の聞き取り
はじめに行われるのが、物件概要についての把握です。売主に物件についていくつか質問し、借入額の有無などを把握していきます。具体的には、以下のような質問をして物件概要を把握していきます。
●不動産の種別や土地の面積、使用状況などの基本情報
●住宅ローンの借入額や借入先
●税金や管理費などの滞納の有無
●法定相続人の確認
●引き渡し時に精算対象となる収益金の有無
●賃貸借や不法占有など、第三者占有の有無
●付帯設備及び物件状況確認書の確認
売主がわかる範囲で、上記のような基本的な情報を収集していきましょう。
2. 現地調査
次に行われるのが、現地調査です。現地調査では実際に現地に足を運んで、建物の配置や境界、近隣の環境や道路状況などを確認していきます。
現地調査で調べる内容は、主に以下のような項目です。
●地勢
●道路状況
●近隣地利用状況
●境界の有無
●公図とのズレの有無
●交通機関
●学校やスーパーなどを含む周囲の施設
●建物の状況
●騒音やニオイなど
●事故や災害の有無
こういった情報は、地図やネットでも調べられます。しかし、「道路は未舗装か舗装済みか」「バス停の位置はどこか」「近隣の工場から異臭は出ないか」などといった詳細な情報は、やはり現地に行かないとわからないものです。しっかりと現地を調査し、正しく周辺環境を把握しておきましょう。
3. 法務局調査
法務調査では、登記簿謄本(登記事項証明書)と公図、地積測量図を取得して不動産の公式なデータを調べていきます。登記簿などから物件所有者の名義や抵当権の状況、共有名義の有無などについて確認していきます。もしもこの際、登記簿謄本に記載されている名義が売主と異なっている場合は、不動産の売却はできません。
自治体が区画整理事業を実施した区域や地籍調査を行った地域では、法務局では正しい測量図が手に入れられないこともあります。この場合は、該当する自治体に問い合わせる作業が必要です。
4. 役所調査
次に、市区町村の役所で行う役所調査を実施していきます。役所で調査されるのは、以下の4点です。
●建築基準法や都市計画法による制限の有無
●その他法令による制限の有無
●道路状況
●インフラ設備
メインとなるのは、物件の建築方法やリフォームに対する制限の有無です。しっかりと確認しておかないと、購入したあとに「リフォームの許可が下りなかった」というクレームにつながる可能性があります。
また、現地調査のときに行った道路調査も、ここで再度行います。道路の種類や幅員について詳しく調べておきましょう。
5.インフラ施設の調査
インフラとは、水道やガスなど私達の生活基盤を支える設備のことを指します。役所の調査時にも「上下水設備は整っているか」「ガスや電気の供給状況はどうか」などについて調べますが、ここではさらに深掘りして調査を進めていきます。
このときに調査されるのは、以下のような項目です。
●飲料水設備の有無
●下水設備や浄化槽の有無
●インフラの供給状況
●電気の容量
●ガスの種類やガスメーターの有無
●設備設置や更新にかかる費用
このときに大切なのは、インフラ設備の有無に加えて実際に居住するとなったときにかかる費用や手間についても調査することです。インフラが整っていない物件が売れるケースは少ないため、問題がある場合は「◯日までに整備予定」という条件をつけて売りに出す必要があります。
6.市場・取引事例調査
最後に、物件の正しい金額を決定するために市場や取引事例の調査を行っていきます。不動産は物件の状態だけではなく、土地の人気や需要によって価格が大きく上下します。正しい金額を導き出すために周辺物件の値段を参考にしつつ、今売りに出ている物件の数や値下げの実績なども調査していきましょう。
また、近隣で行われた物件の取引事例についても調査していきます。実際の成約価格を知っておくことで、最終的にどれくらいの値段で物件が売れるのかについて予測が立てられます。
物件調査のときに気をつけたいこと
物件調査は正しく行わないと、クレームや思わぬトラブルの元になります。購入してから「こんな情報聞いていなかった」などのクレームを防ぐには、物件調査のときに気をつけるべきポイントを押さえておくことが大切です。
ここからは、物件調査のときに気をつけたい4つのポイントを解説していきます。
1. 物件によって調査内容は異なる
物件調査の内容はマンションや一戸建て、土地のみのケースなど不動産種によってまったく異なります。物件によって異なる調査ポイントとしては、たとえば以下のようなものが挙げられます。
マンションの物件調査
●ポストや廊下などを含む共有スペースの状況
●ペット飼育や楽器などの条件を記載した管理規約の内容
●エレベーターやバリアフリー設備
●ゴミの出し方やルール
一戸建てや土地の物件調査
●埋没物の有無
●建て付けや雨漏りの有無
●近隣建物の状況や日当たりなど
●接道状況
物件調査では「買主にとってどんな情報が重要か」についてしっかりと洗い出し、一軒一軒に合った調査をしていくことが大切です。
2. 売主の本人確認は慎重に
売主の確認も、物件調査のときにしっかりと行っておきたい工程です。しっかりと確認しておかないと、詐欺や意思疎通ができない所有者を騙った第三者による売却など、不動産売買トラブルに巻き込まれてしまうことがあるためです。
不動産業者のなかには「まさか自分が騙されるわけがない」と考える方も多いかもしれません。しかし2017年には、大手ハウスメーカーが、売主を騙った地面師と呼ばれる詐欺師に55億円を騙し取られる事件が発生しています。詐欺師の手法は年々巧妙になっており、大手企業でも騙されることもあるのです。
こういったトラブルを防ぐには、何よりも本人確認が非常に大切です。本人確認書類が偽造されるケースもあるため、書類の照会は慎重に行いましょう。
3. 法令による制限がないかを確認する
不動産の利用には、法令による制限がつきものです。建築物の高さ制限や容積率などの制限を調査し、買主が不動産を購入する目的を妨げることがないかをしっかりと確認しておきましょう。
現時点では問題がなくても、将来的に制限が変更されて買主に不利益を及ぼすこともあります。将来性も加味したうえで、調査や説明を行ってください。
4. 権利関係をしっかりと把握する
売買予定の物件に関する権利関係の把握も、物件調査でしっかりと行う必要があります。差し押さえや破産、抵当権などが登記されている場合は、物件売買を阻害する原因となってしまうことがあるためです。
このときにとくに注意したいのが、賃貸権です。登記簿上に載っていなくても、実際には有効な借地権が存在しているケースも少なくはありません。売買をしたときに所有権がきちんと移転できるように、権利の解除や抹消はしっかりと行っておいてください。
物件調査でよくある質問
最後に、物件調査でよくある質問についてお答えしていきます。
1. 物件調査に必要な持ち物は?
物件調査に必要な持ち物は以下のとおりです。
●メモと筆記用具
●登記簿謄本
●公図
●地籍測量図
●建物の図面
●個人情報調査の委任状
●住宅地図
上記の持ち物のほかにも、どんなことを調査するかについてまとめておいた調査シートを作成して持参することをおすすめします。
2. 物件調査のコツは?
物件調査をするときのコツは、できるだけ詳しく質問をすることです。たとえば、役所調査で「ここは下水の設備がありますか?」と聞いてしまうと、「あります」という回答だけが返ってきてしまいます。
基本的に役所の担当者はこちらから質問したことにしか答えてくれず、詳しい説明はしてくれません。そのためこのような質問だけだと、物件の詳細な調査はできないのです。
物件調査をするときは、「下水道の有無と管径を教えてください。それと、下水道台帳図面もください」「下水道の負担金や使用料金について教えてください」と、知りたいことについては可能な限り具体的に質問してください。
また、担当者によって返答が変わることもあるため、調査日と担当者の氏名は必ず控えておきましょう。
当事者目線に立った不動産物件調査を!
不動産の売買に欠かせない不動産物件調査。多くの調査が必要で正確な情報収集は難しいですが、売買取引をする当事者目線に立って、必要な情報を正しく伝えることが大切です。
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